

多摩美術大学90周年記念+多摩美シアタープロジェクトびびび 発足記念
特別鼎談
パイセンズ稽古場訪問!vol.2
卒業生からみる『アートマーザー』転転飯店編
平山犬×中村亮太(以上、転転飯店)
聞き手 加納豊美(多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科教授・舞台衣裳家・衣服文化研究者)

演劇のおもしろさ、劇場の魅力
加納:忙しいなか、今日は来てくれてありがとうございます。
中村:こちらこそお招きありがとうございます。
平山:観られてよかったです、本当に。
加納:稽古場のメンバーがザワザワして握手とか求めたり写真撮ったりしてたけど、どういうこと? 仕込みじゃないよ(笑)
ふたり:照れ笑い。
加納:ふたりにとってもここは懐かしい稽古場だと思いますが、久しぶりの母校はどうですか?
中村:そうですね、めちゃくちゃ思い入れ深い。意外と変わってないですね、雰囲気とか。こんなだったこんなだったみたいな。
平山:建物はいじってないですもんね?
加納:建物はそのまんま。この稽古場で、たくさんの芝居を2人も創ったね。
『花に嵐の例えもあるが、鳴かぬ鳴かんの烏は鳴いた』(2014)
作:演出:平山犬

舞台写真

ビジュアル

平 山さんのコメント
中村:数多の衝突を繰り返し...(笑)何本やったんだろう。
加納:数多の恋バナ...数多のクラッシュ...色々...(笑)
中村:宇宙みたいなね(笑)
加納:色々あって、私にとっても忘れ難い。
去年の2月か3月頃に、井関くん(注:転転飯店のスタッフ)から、「<まかないラジオ>っていうYouTubeをやっていて、登録者数が2万人になりました」っていうメールをもらって。そういう番組があることも知らずに初めてアクセスして、そしたらもうおもしろくて! でもこれは私が知ってるふたりだからおもしろいのか、絶対値のおもしろさなのかわからなかったんだけど、だんだん絶対値で何かしら怪しくおもしろいんだってことがわかった。
平山:嬉しい〜
中村:おかげ様ですね。
加納:その中でおふたりが話してた言葉で、そもそも<転転飯店>と名乗って活動を始めた時に、「持続可能」っていう言葉を使ってたり、「劇場で待ってるよ」「演劇っておもしろいよ」っていうメッセージを発しているのが、すっごく嬉しくって。
中村:よかった〜。
平山:多摩美の名を出すなって言われるのかと思った(笑)
加納:いやいや、本当にそれがとても嬉しいなって思ってるのね。ベタな質問ではあるんだけど、どんな時につくづく「演劇っておもしろい」って思ったりする?
平山:僕は劇場っていう建物自体が好きです。だいたい開演の30分とか1時間前とかに開場するじゃないですか。僕は開場したての頃に入るんですよ。お得だと思うんです、30分多く居られるってことだけで。座ってるだけでもワクワクするし、音楽かかってるのもワクワクするし。
加納:へぇ〜〜〜。それは劇場初体験の時からそうなの? どこだったか覚えてる?
平山:初体験で「あ! なんかいい空間だ!」って思ったんだと思います。確か三鷹の<星のホール>だったと思います。なんかコントの演目でしたね。その後、本多劇場でラーメンズを観ました。
加納:三鷹で見たか!
平山・中村:おっと〜!(笑)

平山さんが初めて劇場で観た作品
加納:ラーメンズも多摩美だ。今年のオープンキャンパスで、進学相談のコーナーに来た女子高生が学科パンフレットを見て、「転転飯店だ!」って黄色い声を出していて。転転飯店が第2のラーメンズになるんじゃないかって、密かに思ってたりするんだけど(笑)
中村:上野毛の(笑)
平山:ちょっとスケールダウン...(笑)
加納:八王子はラーメン単品だけど上野毛は飯店だよ? レストランごと。
平山:確かに図らずも...
中村:ラーメン一本で勝負してない、サイドメニュー重視(笑)
稽古場という実験場
中村:僕は、もうとにかくやってるのが好きで。今日もいっぱい起こってましたけど。人とやってるから自分が変わっていく瞬間がすごく不思議だなとずっと思っていて。演出が入ったり、隣の人がこうしているからみたいなので自分の状態が変わっていくというのがすごく不思議だなと思ってすごく楽しくて。
今日の稽古場もそれがずっと起こってて、本当にいい稽古場だなと思った。
平山:すごかったね、稽古場が。
中村:糸井さんの後ろから近藤さん出てきた時びっくりしちゃった!なんなんだこの稽古場は! 柴さんもなんかずっと見てるし。上野毛こんなやばいことになってたんだって思って。
加納:夢のようなプロジェクト。おかげさまで、歴史を積み重ねる中でこんなことができるようになって。
中村:ちょっと特異点的な場所になってましたね。
加納:稽古ももう終盤でまもなく劇場入りなんですけど、そうするとますます稽古場が愛おしいというか、稽古場っていいじゃんやっぱり。まさに何かが起こり続けて変化し続けて、影響し合い続ける。今日ご覧になって、稽古の率直な感想はいかがですか?
平山:あんまり褒めすぎてもアレですけど、高い気がするんですよね、レベルが。
中村:レベルが高い!
平山:それは高くなるか、このカリキュラムだったら。糸井さんたちが入ってからどれぐらいですか? もうだいぶ前ですよね。
加納:今年入ってきた子たちが12期生で、糸井さんはこの学科の最初から関わっていて、柴さんは3年目ぐらいからかな。ただ今回、「上演芸術界のアーティストでもある教員と学生が一緒にやるぞ」って謳い文句なんだけど、教員がアーティストとして学生と大学で演劇を作るっていう土俵は、今回が初めてなの。出演者もオーディションで、いわゆる必修授業だとできない新しい枠組みなんだけど、こういう形で大学で作品を創ることを「いいね! いいね! いいね!」っていうメンバーが揃っちゃったの(笑)
ふたり:ははははは!
平山:野上さんいるんだもんね。野上さんバチバチだったもんね。主演で、出ずっぱですか? すごいよね、そう考えたら。
中村:正直、内心、頭抱えてて。これ経験した人たちが卒業して、オーディションとかでばったりみたいなことがあったら、僕、尻尾巻いて逃げる可能性が...恐ろしい...。
加納:なんて謙虚なことを言うの。
中村:とんでもないっす、ほんとに。もうちょっと大人が統率して、引率してっていうイメージで今日観に来たんですけど、それはもう全然ないですね。
加納:わあああ嬉しい。
平山:ほんとに何かを創る現場でしたね。
中村:各セクションから高い要求をされて、学生が応えて、みたいなことが当たり前に行われてたから。「こんな人たち卒業させないでくれ、俺食う飯なくなっちゃうよ」って思った(笑)
加納:すごい嬉しいコメントだな〜。
平山:糸井さんが、「焼き鳥の(シーン)ところで、ジュウジュウとか擬音のところだけ楽しい感じで」って演出をつけて、学生たち一発でできてたじゃないですか。みんなすぐできるのが、単純にレベルの高さを感じました。
加納:それはこの稽古の期間の中の、今日観ていただいたから、そういう瞬間に出くわしたのかもしれない。「稽古場って何やってもいいところだ」っていうことがだんだんわかってくる前と、そのビフォー/アフターってあるじゃない?
とにかく開いていって、何事も実験の場だっていうことが腑に落ちる時期っていうのがやっぱりあると思うんだけど、そういう意味では何やっても良い、天真爛漫でいようって思える時期を、今観てくださったんじゃないかな。
平山:楽しかった〜。
中村:演者のなかに野上さんがいるのもいいのかもしれないですね、そういう作用においては。何でもやっちゃうし。
平山:かっこよかったもんね、やっぱり野上さん。
加納:究極のパイセンズと、共演してるわけだもんね(笑)
(野上)絹ちゃんの存在の仕方の影響力ってすごいんじゃないかな、目の当たりにするわけだもんね。
中村:うん、あの先輩があんだけやってたら、じゃあいっか! ってなりますよね(笑) 誰も遠慮してない感じ。
平山:かっこよかった、みんな。



稽古風景
授業である/ない、創作
平山:スイングがいるんですよね? すごい。
中村:近藤さんと一緒にいた2名の方ですか?
加納:そうそう。いや、すごいんだ、あのふたり。スイングの通し稽古を今までで3回かな、やったんだけど、完璧なのよ。彼らはずっと観てて、稽古が終わった後にふたりでここで返し稽古をやって。昨日のスイングが入った通し稽古の時に、スイングだからできることってあるんだなって思ったの。彼らはすごく批評的に稽古を観てるんで、演出家が何を言ってるのか、何が起こってるのか、ちょっと違うレイヤーのところで、自分はどう提案できるだろうかっていう...
平山:ここに足りないものがわかった上で、っていうことですよね。
加納:そう、そこでまた本役の俳優たちが刺激を受けるじゃない?
中村:すごいことやってるって思いました。スイングの方だったんですね。
加納:カンパニーにとって良い影響を及ぼしてくれているなぁ。


スイングの田中我門(写真左)と菅原空宙(写真右)
キャストが出演できない際の代役として、複数の役をカバーするために控えている俳優。出演者の体調不良による公演中止が相次いだコロナ禍以降、スイングの重要性が見直されており、多摩美でも本作で初めて導入した。
平山:そういうのも含めてちゃんとしてるよね。ちゃんと普通に演劇を創るっていう。授業とかではなく、授業なんだけど。
平山:これ単位はあるんですか?
加納:わずかな単位がある。
平山:演出助手の方も学生さんですか?
中村:このメンバーで演出助手できるって有り得ない...。なんか、卒業した後の稽古場がヘボく見えちゃうんじゃないか。あんなレベルの人たちぞろぞろいないから。
平山:ははははは! ほんとにそうだよね、ほんとにそうだと思う(笑)
加納:こういう環境が、実際の演劇界のなかにおいては、残念ながら稀有だったりする現実があるじゃない? 稽古場の環境にしたって。転転飯店も、公園で稽古してたもんね(笑)
中村:すぐそこの河川敷とかね(笑)
今は事務所をお借りしてなんとかできてるけどね。物で溢れている...(笑)

稽古を観るおふたり
加納:本番は観に来ていただけそうですか?
中村:まんまと観たくなっちゃいました。
平山:私、なんとなく野上さんがあんまり出ないのかと思っていて。こんなに!こんなに野上さんが観れるのかって(笑)
中村:もっと野上さんがグイグイ引っ張ってってるのかなと思ったら、なんかもう全然負けないぐらいのエネルギーが学生サイドにもあるし、恐ろしいですね本当に...何とか留年させてください、仕事なくなっちゃうから(笑)
加納:今日お話しくださったことをこの後、カンパニーメンバーも文字で読むことになるんだけど、きっとすごく励まされると思うし、背中を押す言葉をありがとうございました。
中村:むしろ励まされました。勉強になりました、今日。
加納:謙虚が服着てる? 中村謙虚って呼んでいい?(笑)
一同:ははははは!
中村:謙虚にするか、名前(笑) 楽しかったな。わくわくもしたし、最高でした。
加納:何か言い残しがあれば。
平山:なんとなく、僕らの時って、言っていいのかわかんないですけど、あんまり何も教えてくれなかった...8割は感で作ってた感じ(笑)
加納:妖精大図鑑と同じこと言ってる(笑)
中村:「こんな感じっしょ」みたいなものを見せて、ちょっと怒られるっていう。「なんか怒られたんだけど、違ったみたい」っていう(笑) それももちろんいい勉強でしたけど、
平山:それが今、ちゃんと俳優を育てようみたいな、演劇というものを根絶やしにしないぞ、みたいな気概を感じてしまいましたね。我々の時とは違って。
加納:どういうこと?(笑)
一同:爆笑
平山:卒制はどうなんですか? (戯曲を)書く授業もあるんですか?
加納:あるある、柴さんの授業で。教えてるかどうかわかんないけど(笑)
卒制は、企画をプレゼンして各々自由に上演する、昔の映像演劇学科のスタイルに今年から変わる。
中村:どうなるんだろうね。
平山:めちゃくちゃ見応えあると思う、この人たち。
中村:作り方はもう知ってるわけだもんね。確実に何か影響しますよね。
加納:これに参加した学生たちが、卒制で自分のカンパニーに何かしら持ち帰ってくれるとね。
中村:すぐに一線に来るんだろうな...。仕事ください!
平山:売れたら使ってください!
加納:こうやってこの人たちは世の中に出てったんだな〜(笑)
中村:本当に楽しみです、心から。めちゃくちゃ...めちゃくちゃ良さそうですよね。本当に出演陣、手応えある顔してました。誰も疑ってないですよね、この空間を。それは本当にめちゃくちゃ良かったです。楽しみにしております。
平山:楽しみです!
加納:本日は、お忙しいなかどうもありがとうございました〜 チャンチャン!

パイセン・野上絹代と記念撮影
(2025年9月某日、稽古場にて収録)
転転飯店(てんてんはんてん)

作家・平山犬と役者・中村亮太を中心に結成されたコントユニット。
“無理なく楽しく健康に”をコンセプトに掲げる。
“持続可能なコント公演”と銘打った、年1-2回の公演を制作する。
YouTubeの登録者は現在64.4万人(2025年9月現在)
SNSでは”劇場に向かうハードルを下げる”を目標に主にショートコントなどを公開中。
https://tentenhanten.myportfolio.com/profile

平山犬(ひらやまいぬ)
1994年3月3日生まれ 多摩美術大学卒
劇作家・コント作家のほか舞台俳優としても活動を行う
2023年に転転飯店を主催
【趣味】散歩することとラジオを聴くことです。
【特技】3分間息を止められることと道を覚えることです。

中村亮太(なかむらりょうた)
1993年12月18日 熊本出身 多摩美術大学卒
主に劇場で活躍する役者
【特技】口の端で口笛が吹ける


上演芸術の最前線で活躍するアーティストでもある教員と学生によるカンパニーが始動!
多摩美シアタープロジェクト びびび vol.1
アートマーザー
2025年9月13日(土)〜9月15日(月・祝)
彩の国さいたま芸術劇場 小ホール
喜び 悲しみ 全て かき集めた心は 何処行くの? 冥土の土産になるの?
舞台はアートマーザー(お婆さん)の邸。その寝室。
約束の雨の夜、アートマーザーの一族が集結する。
一族は皆、芸術家。
アートマーザーは芸術的に眠ることを望んでいる。
一族は協力しながら、歌ったりお話を聞かせたりして、アートマーザーを芸術的に眠らせなければならない。
アートマーザーを納得させる大人守唄を一族は生み出せるのか───。
作・演出・音楽: 糸井幸之介
ドラマトゥルク: 柴幸男(ままごと)
振付:近藤良平(コンドルズ)
出演:野上絹代(FAIFAI)
安藤優 一木海南江 岩波龍之介 岡崎毬紗 丘街ココ 小沢日菜 川堺萌寧 猿田雅子
中曽拓水 原田昊希 日髙来哉 藤田敦也 皆川大和 三輪栞子 八坂采音
美術プラン: 小林瑚夏
衣裳プラン: 新井涼香、森絢子
音響プラン: 鈴木はじめ(妖精大図鑑)
照明プラン: 杉浦千尋、DENG Jinglin
舞台監督: 久保田朱音
大道具・小道具製作: 加藤仁子、川崎夢月、小松未子、佐々木萌、祖父江未
SUN Yue、中村和歌乃、林愛花、XU Liting
羽田妃伽、舟窪知菜美、DAI Yan
衣裳製作: 新井涼香 給分楓、小峰葉菜、ZHOU Chengming、宮原結、森絢子、森こころ
YUAN Rui、草部真彩、平岡朱夏
音響操作: 鏑木知宏
音響: 石井萌
苗代裕佳
照明操作: 石橋美紗、内海璃女、佐山莉果
照明: 高槇さやか、上馬真歩、後藤ルカ
演出助手: 小川真奈
振付助手:八坂采音
スイング:菅原空宙、田中我門
宣伝美術: 有本怜生
プロフィール写真:白井晴幸
パンフレットデザイン:則武弥
8K収録 監督・編集:須藤崇規
8K収録 撮影:西村明也、三上亮
制作:大平智己、加納豊美、土屋康範、森山直人
石田彩依、駒井珠里、原田花楓
プロデューサー: 坂本もも (範宙遊泳/ロロ)
担当助手: 木下裕絵、吉澤京
美術アドヴァイザー: 金井勇一郎
道具製作アドヴァイザー: 阿部宗徳、岡田透
衣裳アドヴァイザー: 加納豊美
衣裳製作アドヴァイザー:石橋舞、三浦洋子
照明アドヴァイザー: 大平智己
舞台監督アドヴァイザー: 岩谷ちなつ、佐藤恵
協力:ローソンチケット、チケットぴあ、R7 TICKET SERVICE、林あまり、妖精大図鑑、転転飯店
企画制作・主催: 多摩美術大学 演劇舞踊デザイン学科 研究室

